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墨と髪の幽明 ― 『松井冬子展 ― 世界中の子と友達になれる ―』

横浜美術館で開催中の『松井冬子展 ― 世界中の子と友達になれる ―』を観た。

多くの絵は薄墨で覆われている。
それは生と死の境の幽明を表しているようだ。
死と再生のサイクルを描いたレオナルド・ダヴィンチの『モナリザ』の画面を覆う暗さを連想させる。
作者にとって、墨は不可欠な素材なのだ。
それが、日本画に転向した大きな理由なのだろうと思った。

次に眼を惹くのは、至る絵に髪が描かれていること。
幽明なカオスの密度が高まったところに物質が現れるように、
生命の風が吹いた後に残る軌跡のように。

髪は主(ぬし)が死んだ後でも久しく残る。
それは正に幽霊の象徴として相応しい。
髪もまた生死の境を表している。

画家の『自画像』。
この絵だけは髪が封印されている。
髪の部分は白く反転し、塑型化している。
作者は幽明に漂っていない。
顔は木目に同化し、ひたすら目撃者たらんとしているかのようだ。

『世界中の子と友達になれる』。
少女が探しているものは、最初、ぼんやりとして形象が定かではない。
やがて、それは、揺りかごだと判る。
自分が出て来たところ、
いつでも帰れる安心出来る場所。
そして、最後には帰って行くところ。
それは、揺りかごであり、棺であり、子宮である。

安心を得た少女は、揺りかごを後にし、未知の旅に出て行く。
それは悲痛な道だが、彼女は歩まずにはいられない。
「世界中の子と友達になれる」と信じて。

『無傷の標本』。
正面に大きく脚を開いて座る裸の少女。
それはイヴでもあり、処女マリアでもあろう。
右側には揺りかごに眠る赤子の姿。
その赤子は骨だけになった女性の見えない子宮の中に眠っている。
自らは朽ち果てても、永遠に新しい命を繋いでいく。
死と再生のサイクル。
これは松井冬子の『モナリザ』だと思った。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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