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未完の神の国 ― 『ルドルフ・シュタイナー 天使の国』

ワタリウム美術館で開催中の『ルドルフ・シュタイナー 天使の国』展を観た。

東から吹き付けるいくつもの火の玉に蚕食されてやせ細る月。
月は地球の不幸な未来のカリカチュア。

シュタイナーが走り書きしたチョークの跡は、黒い地を背景として、鮮烈なメッセージを送って来る。

「宇宙を認識したければ、汝自身を見るがよい。
人間を認識したければ、宇宙を見るがよい。」

頭の中で演じられているものは、いつでも全宇宙の模造。
シュタイナーの黒板絵は思考の星座。

「愛と自由」についてシュタイナーは言う。
自由な存在とは、物質的・身体的なものから霊的・魂的なものへ戻っていける、基本的に、いつでも死ぬことができるもの。
愛とは、霊的・魂的なものから物質的・身体的なものへと移っていける、生きることができるもの。

思いを形にし、行動化して実現を可能にするのが愛。
物質的な形に囚われず、変化や喪失を恐れないのが自由。
自由であるからこそ愛することができる。
そして、愛するほどに自由になる。

「社会的混沌の原因」は「人間が宇宙との関係を忘れ、宇宙について何ひとつ知ろうとしないから」とシュタイナーは言う。
そして、「経済生活が必要とするもの」は「経済とは反対のもの」であり、それは「自立した精神生活」であると言う。

「商品」の概念はImaginationによって認識されるのでなければ理解出来ない。
「労働」はInspirationによって認識するのでなければ把握出来ない。
「資本」はIntuitionによって認識するのでなければ定義付けられない。

上記のように述べる一方、別の黒板絵では、

美 ― Imagination
叡智 ― Inspiration
力 ― Intuition

と書いている。

両者を突き合わせると、

商品 ― 美
労働 ― 叡智
資本 ― 力

となり、何となく彼が言わんとしたことが見えて来る。

美を欠いた商品は魂を貧しくし、すぐに消滅する。
叡智を欠いた労働は人を疲弊させる。
力を欠いた資本は無駄遣いであり、社会を貧困化させる。

精神生活の不在は私たちに無力感を与え、私たちの生活を不幸にする。
経済生活と精神生活を上手く結び付け、循環させるもの。
それが愛であり、自由なのだ。

「心臓の認識」と言う黒板絵でシュタイナーは、物質が大地から上昇する魂的な生命の基礎と天(太陽)から下降する霊的な生かすものとに包まれる姿を描いている。
そして「教育という芸術作品」では、「人体が形成される過程はすべて、魂と霊の働きによるもの」であり、「教育と授業は、魂と霊の最も自由な働きである芸術活動でなければならない」としている。

「第2のからだ」では、誕生から歯が生え替わるまでの7年間は遺伝の力でからだが形成されるが、その後は個性の力によって第2のからだが形成される、としている。
これは、山中伸弥教授の研究等による、人間のからだはDNAの影響だけでなく細胞そのものの働きによって形成(個性化)される、という最新の知見にも響き合う。

私たちは後天的に変わり得る。
私たちはいつでも学び/芸術活動によって新しい自分を形成し得る。
そのことによって私たちの愛と自由が増えていく。

「ゲーテアヌムの建築思想」
荷重の力を玄関部や窓枠を通して眼に見えるものにする。
玄関が人を内部に受け入れ、窓が光を内部に受け入れる。
内的・精神的にも理解できるようにしたい。
霊的なものを求めてくる人たちのための一種の安らぎの場であることを、形態を通して明らかにすること。

ゲーテアヌムは教会なのだ。
外界のノイズを堅固な枠で遮断し、光のみを取り込み、内部の人に安全・安心な思索と祈りの場を提供する。
イエス・キリスト自身が20世紀のヨーロッパに於いて教会を建てるとしたらこのようなものになるのではないだろうか。

シュタイナーの活動は、正に地上に於ける神の国を創らんとする努力であったように思われる。
ゲーテアヌムが生前未完だったように、神の国は未完に終わった。
しかし、神の国に完成形は無い。
人々が宇宙とのつながりを取り戻し、自立した精神生活を送る不断の日々の中に神の国が在るのではないか、と思う。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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