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メメントモリともののあはれ ― 『画と機』

東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『画と機 山本耀司・朝倉優佳』を観た。

最初のホールに入ると、照明を落とした幽暗な空間の中に裸体の人物が座位で抱擁した彫像が2体浮かび上がって来る。
そして、背景の壁には赤い色が目立つ絵が何枚か展示してある。
2体の彫像と並んでホールの中央には4枚のガラスの衝立が置かれている。
そのうち3枚の衝立は、片面に山本が、反対面に朝倉が描いたコラボである。

ホールの暗さは、デフォルトモードの闇。
そして、赤と黒のコントラストの強い絵は生と死を連想させる。
しかし、ここで描かれた赤は血の騒ぎを感じさせ、生命はざわざわとしたノイズのよう。
ストレートな生命賛歌ではない。
暴れる。
暴力性を持つ生命。

2体の彫像とガラスの衝立のコラボから見えるのは、生命を補完し合う存在としての男と女。
コラボの画面は踊るアルルカンを思わせる。
生を暴力的に謳歌するだけでなく、機知に富んだ諧謔精神で対峙しようという企みも透けて見えるようだ。

第2のホールに入る。
明るくて天井が高い。
暗示的な世界からより具体的な生活の空間に入って来た感じ。

入って左側の壁面には、朝倉が走り描きした明るい色調の絵が沢山展示してある。
それは暴力性を内包したエロス的なイメージで満ち溢れている。
自らが生きていることを確かめる性の営み。
その時、意識は光を放ち、この世を照らす。

右側の壁に眼を転じると、同じく朝倉が描き殴った暗黒色の絵が沢山。
その中には、山本のスタイリッシュな絵が4枚点在。

床の上には、木の枝や針金をマネキンに見立てて山本デザインの衣装が展示されている。
まるでハロウィーンみたいだ。
亡霊がヌッと佇っている感じ。

時々聞こえる咳払いの音。
水がジョロジョロ流れる音。
カラスの鳴き声。
犬の吠える声。
小さく聞こえるアナウンスの声。
生活の音声が虚ろに聞こえる。

メメントモリ。
白骨死体を思わせる木の枝が赤い布をまとって横たわっている。

ところどころに現れる松岡正剛と山本耀司の肖像画。
言葉やイメージによって生と死の現象と格闘しようとする機知に富んだ諧謔精神。
しかし、生と死そのものと比べると随分と大人しい。

ホールの奥の方に在るいくつかの衝立に山本が描いた人物像には孤愁が漂う。
人が個としてこの世を生きる孤独。
だから衣装を身にまとう必然性が有るのか。

ホール左奥に置かれた衝立に山本が描いた桜。
黒く太い幹に真っ赤な花。
艶やかな花だが命は短い。
山本の原風景。
もののあはれ。

回廊に抜けると、黒い下地に細い線で走るように描いた絵がいくつも並んでいる。
スピード。
ダンス。
動くその瞬間だけ生が確かめられる。

会場を一巡すると、現代を生きることの難しさをひしひしと感じる。
なかなかシンプルに生命を謳歌しがたい。
しかし、大切な軸がふたつ有る。

我々は皆死すべき存在であるという認識、メメントモリ。
それ故にこそ、奇跡のような生をいとおしむ、もののあはれ。
山本耀司の衣装はその両者を包み、統合するものなのだ、と思った。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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