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フィロバティックな光の職人 - 『パウル・クレー|おわらないアトリエ』

国立近代美術館で開催中の『パウル・クレー|おわらないアトリエ』展を観た。

今回の展覧会はクレーのメーキング・プロセスを紹介し、技術的な角度から作品を照らそうと言う試みで、大変興味深い。
私としては、技術的な手法そのものよりも、何故その技術的手法を採用したのか、と言うクレーの内的動機とその技法の必然性に関心があった。

私は最近、カウンセリングの中にコラージュ療法を取り入れ始めた。
以前は、コラージュを箱庭療法の代用品のように考えていて、カウンセリング・ルームに箱庭の設備が無い場合や、出張で箱庭が使えない場合に代わりに利用する手段、程度の認識しか持っていなかったが、自分でコラージュの作品を作ってみると、箱庭を作る時とは相当違った感覚が得られ、内心驚いた。

箱庭療法の場合には、置くべきフィギュアは予め用意され、棚に並べられている。
どうしても欲しいフィギュアが無い場合には、クライエントが紙や粘土で自作することもあり得るが、大抵は用意されたフィギュアを使用する。
それに対して、コラージュの場合には、用いるべきピース(写真等)を、それが本来納まっているコンテクスト(雑誌等)から切り離す、と言うロゴス的な行為が先ずあり、しかる後に、複数のピースを再構成して台紙に貼る、つまり、統合して自分の世界を作る、と言うエロス的な行為が組み合わさる。
そこには、自分が主体となって意識して切り離す行為をしている感覚があり、箱庭制作に比べて、より自分の自我意識がしっかりと働いている。
また、ひとつひとつのピースが箱庭のフィギュアに比べてはるかに象徴的な意味を持っており、それはピースを既存のコンテクストから切り離すことによって産み出されて来る。

コラージュを作っている時、私は、対象と適度な距離を取り、対象と自分との間にある間(スペース)に自由と幸福感を感じる。
英国の精神科医、M.バリントは、このような対象との関係の持ち方をフィロバティズムと呼んだ。
パウル・クレーが自作の絵を切り離し、再構成する創作手法は正にコラージュの技法であり、極めてフィロバティックである。

感情が昂じて来ると、複数の事柄がゴチャ混ぜになって想起されて来ることがある。
それをカウンセリングで上手に傾聴していると、複数の主題が分かれて見えて来る。
クレーの創作手法にも似たようなところがあり、最初の絵を描く時には最終的な構図を意識せずに手の動くままに描いていると、どんどんいい絵が生まれて来る。
次に、描かれた絵を理性的な眼で見て、切り分けることによって、適切な主題に焦点を当てた最終形の作品を作り上げる、と言うところがあるように思われる。

回転することによって見え方が変わり、イメージの持つ意味が変わって来る、と言う体験は、箱庭療法の場合にも、常に起こると言っても過言ではない。
作った箱庭を別な方向から見た結果、新たな気付きを得ることはよくある。
また、箱庭を作った時には見えなかった意味が年単位の時間が経ってから分かる、と言うこともある。

1925年に描いた『花ひらく木』を9年後の1934年に回転させて大きさを倍にした『花ひらいて』。
9年の歳月を経て再会した自分の絵にクレーは何を見出したのだろう。
『花ひらいて』の筆致には迷いが無い。
色彩の平均律が完成したかのようだ。
けれども私は、ひとつひとつの色を手探りで探し当てて行った過程がまざまざと残る『花ひらく木』の方に、はるかに生命力のこもった美しさを感じ、親近感を覚える。

自分の作品を改変したり、編集したりして新しい作品を創作して行くやり方は、クレーが敬愛したJ・S・バッハが取った創作手法でもある。
『マタイ受難曲』は、福音書のテキストをベースに、ソロの歌曲、重唱曲や合唱曲、そしてコラールを組み合せた壮大なコラージュだとも言える。
絶えず表現の可能性を拡げるための試みを怠らなかったバッハの職人気質はクレーと似ている。
また、バッハの音楽は細部の旋律や和声展開が実に美しく、その色彩感覚はクレーの絵画に通じるところがある。
そして、見えないものを五感で感じられるコードに翻訳して伝える媒介者としての在り方は両者に共通している。
それは光の職人である。

対象を自在に捌くフィロバティックな立場を確保しながら、光の言葉を翻訳して人々に生きる喜びを伝える職人。
それは、私が憧れる姿でもある。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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