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明晰夢のリアリスト - 『ゴヤ-光と影』展

国立西洋美術館で開催中の『ゴヤ-光と影』展を観た。

最初のコーナーにある『〈ロス・カプリーチョス〉理性の眠りは怪物を生む』が注意を引く。
意識のレベルが下がると、抑えられていたものが一斉に騒ぎ出し、様々なイメージを生む。
それらは魅力的でもあるが、奇怪で恐ろしいものもあり、瞑想では魔境に入る、と言う。
ゴヤはよく魔境的なイメージを見る能力が高かった人のようだ。
一方、「理性の眠りは怪物を生む」と言うタイトルの付け方をみると、魔境的イメージを、距離を取って見る理性の持ち主であったと思われる。
つまり、夢想能力と理性のバランスがゴヤの創作の秘密なのではないか、と直観する。

タピスリー用原画に描かれた情景の背景は実に暗い。
我々の眼は光の当たった人物の方に誘われやすいが、ゴヤの心の通奏低音はあくまでも暗い背景の側にある。
それは、18世紀スペインの宮廷音楽家であったアントニオ・ソレルの短調のチェンバロ曲を想わせる。
『猫の喧嘩』は阿吽、光と影、対立と調和を象徴しているようだ。
夢想と理性を内に抱えたゴヤ自身の自画像とも見える。

一連の素描画や版画を観ると、動きを強く感じる。
絶えず動いて変わって行く一瞬を素早く捉えて描いた、鋭い筆力。
動画の一コマを抜き出したような感じで、その一コマの前後の動きが見えるような錯覚を覚える。
ゴヤは生命が無常であることをよく知っていた。
それは音楽的とも言える。
一瞬の音節を聴いただけで、その何十倍もの長さの音楽を想起させる。
また、それは文学的でもある。
氷山の一角のように、水面下に隠された謎を暗示的に物語る。
ゴヤは見えないものまで描いてしまう凄い画家なのだ。

宮廷画家となったゴヤが人物の内面まで描き出してしまうのは彼の能力からすれば当然とも言える。
豊かな物語性を秘めながら、ゆるぎない写実性を保っている肖像画。
ゴヤは存在の本質を描くのにどこを描けばよいかを本能的に察知して描いたのだ。
彼の絵には、存在の一部を描いて全体を暗示させるレバレッジ効果がある。
宮廷画家時代に描いた肖像画では、描くポイントが対象の表層にフォーカスされており、彼のリアリズムが写実性として表現されている。

戦争の悲惨さを描いた一連の絵には、恐怖、悲痛、憎悪等、極限的な感情が満ち溢れている。
ゴヤのリアリズムは表層の写実性よりも感情の方により焦点を当てている。
彼は感情に共感しつつもそれに流されない。
流されない故にレバレッジ効果で、我々は感情に浸り尽くしたその先に在るより大きなものに導かれる。
そして、この悲惨さも大きなもののひとつの現われなのだ、と気付く。

ゴヤが教会を嫌ったのは当然であったろう。
教会が標榜する宗教は確立された概念であるが、それは死んだものである。
ゴヤのように瞬間、瞬間のプロセスを大切にする人間にとって、霊的なものは常に動いており、ひとつところに止まっていない。
彼の明晰夢は、魔境を越えて、霊的なものに達していたに違いない。

霊的な存在を明晰な理性で感じ、自在に描くリアリスト。
ゴヤがエドゥアール・マネに与えた影響は実に大きかったであろうと思う。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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