スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

華蔵世界の求道者 ― 『髙島野十郎展』

目黒区美術館で開催中の『髙島野十郎展』を観た。

旧制中学在学中に描かれた最初の展示作品「蓮華」。
天に向かってスッと伸びる蓮の花。
背景にぼんやりと霞む五重塔、三重塔。
生涯を通じて彼のテーマとなる華蔵世界が既にはっきりと描かれている。

大正3-5年頃に描かれた「傷を負った自画像」。
東京帝大農学部では非常に優秀な成績を収め、首席で卒業しているが、精神的には無理をしており、苦しい日々だったのだろう。
現し身の自分を生かすために、傷付いた自己像を外在化する切実な必要が有ったに違いない。

「椿とリンゴ」や「紫をもととリンゴ」では、生と死の対比が暗示的に描かれている。
「蓮華」の蓮の花は生と死を包摂した穏やかさを保っているが、リンゴは専ら弾けるような生命力を象徴している。
この時期の野十郎にとっては、この著しい生命力を感じさせるリンゴが生き抜くために重要な意味を持ったシンボルだったのではないだろうか。
そのように観ると、「リンゴを手にした自画像」の意味するところが自ずと見えてくる。

「鉢と茶碗」を観ると、祈りの造形という言葉がふっと湧いて来る。
野十郎は生命・宇宙の真実を科学的・分析的アプローチで極めることを見限り、写実によって受容的に受け入れ、掴もうとしたのだ。

日本国内にいると気付かないが、私たちは知らず知らずのうちに、「こうあらねばならない」とか、「~しなければならない」という思い込みに捉われ、高い緊張感を強いられて生活している。
野十郎の初期作品の持つ暗い求道者的な緊張感は日本での生活によってもたらされた要素も大きい。
39才にして米・欧に渡航した野十郎は、日本国内にいた時に閉じ込められていた見えない檻から解き放たれる。
ヨーロッパで描いた絵には明るい外光が入り込み、リラックスした感がある。
彼は欧州での生活で、求めていた生命力を十分に取り込んだのだろう。
帰国してから旅する画家となる活力は欧州滞在の賜物だろう。

野十郎の風景画には、あらゆる種類の風景を偏らずに描く特徴がある。
山、谷、森、里山、川、池、海、花、寺院、民家、樹木、野原など。
神が造りし自然を選り好みせずに受け入れ、写し取った感じがする。
最初期の「蓮華」で描かれた蓮の花は「すいれんの池」で、五重塔は「法隆寺塔」で、そして三重塔は「寧楽の春」や「古寺の春 法起寺」で再現され、華蔵世界を描く野十郎の絵画感は一貫している。

野十郎の描く風景画にはすべて霊的な気配がある。
それは胎蔵曼荼羅に描かれた414尊の如来や菩薩がすべて大日如来の化身であることを連想させる。
野十郎の描く一枚一枚の絵には神が宿っている。

「小生の研究はただ自然があるのみ」と友人宛の手紙で語った野十郎。
彼の研究成果は静物画という小宇宙の中で遺憾なく発揮される。
垂れ下がっている植物を描いた「葡萄」や「からすうり」には音楽がある。
そして、テーブルの上に置かれた果実を描いた絵でも、特に昭和30年以降になると、その配置がとても音楽的になって来る。
彼の静物画は視覚だけでなく、その音楽性によって聴覚へ、その空気感によって身体感覚に訴える。
野十郎の静物画を観ていると、あらゆる感覚を通して、大いなるものと交信しているような気持ちになる。
静物画が霊的な依代になっている。

野十郎が本質的な主題として追及した光と闇。

太陽を描いた数枚の絵を観ると、太陽の輪郭ははっきりせず、光が、エネルギーが放出して来る様がありありと感じられる。
一方、月を描いた絵を観ると、輪郭がはっきりしており、特に、昭和38年に樹木の影を配して満月を描いた2枚の「満月」を観ていると、月に吸い込まれていくような感じを覚える。
すなわち、太陽はこの世へのエネルギーの放出口、月はこの世からのエネルギーの排出口であり、世界の呼吸に欠くことの出来ないものとして捉えていたのではないか、と思われる。
そして、満月を取り巻く闇は空即是色の空のように、潜在的なエネルギーに満ちている。

生涯を通して描き続けられた「蝋燭」。
炎をよく見ると、一番下の部分が紫、その上に藍、青、緑、黄色、先端部には橙、赤と続き、虹の七色が描き込まれているのが分かる。
ゆらゆらと揺れながらダイナミックなバランスを取る七つのチャクラ。
蝋が無くなれば尽きる限りある命。
「蝋燭」は人間の生命を象徴的に描いた魂の自画像。
野十郎がこの世の生を終えた時、若き日の傷はすっかり癒え、その魂は清浄だったに違いない。
スポンサーサイト

テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。