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亡霊たちの箱庭 ― 『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス』展

東京都庭園美術館で開催中の『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス_さざめく亡霊たち』を観た。

1階のフロアを巡っても、特に展示やインスタレーションは見当たらない。
ただ、部屋に入ると何か意味ありげなささやき声が聞こえて来る。
何と控え目な介入方法なのだろう。

ボルタンスキーはインタビューの中で語っている。
「日本の大切な装飾された場所は展示し易いとは言えない。
歴史的な建物は雄弁に物語るので、その場所を尊重し、何かを押し付けたくない」
それで声を付け加える方法を思い付いた、と言っている。

ボルタンスキーは、旧朝香宮邸でのインスタレーションという企画を提案された時に内心困ったのではないかと思う。
日本でインスタレーションを行うのであれば、日本的な家屋や寺院で、もっと規模の大きな建物でやりたかったのではないだろうか。
洋館はヨーロッパには沢山有って珍しくないし、規模が小さくまとまっていて、物理的に何か付け加えるのが難しいと感じたので、声という無形のものを思い付いたのだろう。

「文明は人類が死者の埋葬をすると共に始まる」
「私は埋葬者だ。それぞれの個人を重要な人間の一人として認識することを大切にしている」

明るい開けた風景の中で沢山の風鈴が鳴る「アニミタス」。
この動画を最初に観た時、私は海岸で撮影されたものだと思った。
後景に海が在るように見えたからだ。
しかし、実際にはチリの砂漠で600個の風鈴を吊るして撮影したものとのこと。

「アニミタス」は死者に穏やかな和解をもたらし、苦悩から解放するための祭壇。
その祭壇は時が経てば朽ち果てて無に帰す。
「物質的には何も残らないが、そこが祈りの場である、という知識は残る」
「誰が作ったかは忘れられても愛はそこに残る」
「言い伝えは芸術よりも強い」
「存在は知っていても、その場所は分からず、行くことが出来ない。でも、知っていることが大事。いつかは行くことが出来るという思いが大事」

本館2階の展示や新館のインスタレーションを観ても、それ自体でビジュアル的に見事だと思うものは無い。
むしろ稚拙な印象が否めない。
しかし、ボルタンスキーがインタビューで語っていることを鑑みると、彼は物質に重きを置いていないから手の込んだ物を敢えて造らないのだ、ということが分かる。
だから、声という発想も自然に出て来たのだろう。

「インスタレーションの形が残る必要は無い。そこにそれが在ったという記憶、知識、物語が大切」
「神話は作品よりも長く生き延びる」

ボルタンスキーは死後の生が在るとは信じていないが、死んだ祖先の霊が自分と共に残っている、という感覚を強く持っている。
この生者が死者の霊に囲まれて生きる、という感覚はかつての日本人が普通に持っていた感覚である。
死者と共に生きる生の豊かさや安らぎ。
ボルタンスキーが、日本が大好きだ、と言うのはその心性がしっくり来るからだろう。

物質にこだわらず、精神を大切にするが故に、彼のスタイルは大変にオープンだ。
「儀式的、宗教的な形式で、答えのない問いを開かれたまま投げ掛け続ける」
「人間であることとは、想像出来ないことに関して想いを馳せること」
大変にコンセプチュアルかつインタラクティブ。

声はあいまいな問い掛けをするので、いかようにも解釈可能である。
また「眼差し」というインスタレーションで展示された無数の眼差しは、それを観る個人にそれぞれ問い掛けている。
ボルタンスキーは「芸術家は顔ではなく鏡だ。観る人は自分の顔を観る」と言っている。
彼は自分の主張を声高くすることなく、常にオープンな姿勢で、鑑賞者の主体性に全幅の信頼を置いている。

私はボルタンスキーのインタビューを聴きながら深い共感を覚えた。
鑑賞者に全幅の信頼を置く彼の表現スタイルは、クライエントに全幅の信頼を置く私のカウンセリング・スタイルに通底している。
彼のインスタレーションが、一種の箱庭のように思えた。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

迷林亭主

Author:迷林亭主
迷林亭主ことカウンセリングルーム・メイウッド室長 服部治夫。
三鷹市の住宅地に佇む隠れ家的なヒーリグ・スペース。
古民家を改装したくつろぎの空間で、アートセラピーや催眠療法などを活用し、カウンセリングやヒーリング、創造性開発の援助に取り組んでいます。

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